池田牧場|北海道・道北・浜頓別|Ikeda Farm

生物多様性が保たれ、微生物の活動が活発な土壌。それが、池田牧場が考える「良い土」の条件です。「土→草→牛→土」の自然サイクルにおいて基本となるのは「土」であり、良い土から良い草が育ち、健康な牛へと繋がっていくものと考えています。

私たちの牧場の土壌は90%以上が泥炭地で、放牧を始めたころは泥濘の箇所も多々ありました。泥炭地とは水はけが悪く、草木が腐敗・分解されずに体積された土壌のことで、明渠の整備が不可欠でした。専用の機械で土壌中に空気を取り込みやすくし、成分分析をもとに微量成分のバランスを整え、微生物が活動しやすい環境を構築していきました。現在では土壌中に団粒構造が形成され、ミミズをはじめとする生物の多様性と活性が豊かな土に変化。加えて、牛の排出物が自然に分解されるようになり、牧草の栄養と生育に必要なサイクルが形成されています。

2023年からは放牧専用地18.5haで有機飼料認証を取得。牧場の外から取り入れる栄養素(肥料)のほか、生産物(乳や肉)の形で牧場外に持ち出される栄養素を“牧場全体”で捉え、必要以上の栄養素を持ち込み、持ち出さないようバランスを整えています。


放牧飼養のきっかけとなったのは、ニュージーランドへの視察でした。当時の日本ではイネ科牧草の「オーチャード」や「チモシー」が牧草の主体でしたが、現地では多くの酪農家が「ペレニアルライグラス(ペレ)」を活用しているのを目の当たりに。ペレは栄養価が高く、浜頓別町の寒冷地気候にも適しており、他の牧草に比べて生育・伸長の速さや永続性に優れています。しかし、私たちが本格的に放牧をはじめたころは天北農業試験場(現上川農業試験場天北支場)にてペレの導入試験を行っていた最中で、国内ではまだ実用化に至っておらず、あまり認知もされていなかったのです。

そのような中、私たちの牧場では国内で最初にペレを導入。同時に、草の成長に関わる窒素を空気中から取り込み、土壌中に固定することができるマメ科の「シロクローバー」も播種し、割合をペレとシロクロバーを3:1の割合を目安に播種しています。新たに投入する肥料を最小限に留め、サステナブルな草地を実現しています。


実は池田牧場では、穀物を多給し、生産量重視の飼養管理を行っていた時代があります。今より穀物価格が安価で、給与量に比例した生乳生産が叶っていたのが理由です。しかし、乳量が増える反面、牛の疾病も多くなっていたのも事実でした。疾病が増えて牛の健康が乱れることで、飼養管理の手間が増え、労働時間が長くなり、収益性も次第に悪くなってしまったのです。

大きな転換となったのは先のニュージーランド視察研修で、生産量から健康を重視した飼養管理へのシフトを決断。放牧飼養を通して牛という動物本来の在り方を見つめ直し、同時に季節に応じた飼養管理に取り組んだ結果、疾病率はみるみる減少し、収益性と労働時間が見違えるように改善されました。

同時に、放牧に見合った足腰の強化などを優先した家畜改良(種の選定)を実施。放牧システムに対応できるよう、育成牛の早期放牧も実践しました。現在では、世界的にも盛んなゲノム解析をベースにした牛群改良を進め、牛一頭の生産乳量よりも「放牧を行いながら、牧場で長く活躍できる牛」を目標に牛づくりを進めています。
そのほかにも、牛の健康増進の一つとして活性水の導入と家畜のプロバイオティクス(腸内フローラのバランスを改善し、健康に好影響を与える)を採用。2014年の新畜舎建築のタイミングからは、治療履歴や泌乳ステージなど牛1頭1頭の状態を数値化して記録するとともに、人間の目で観察も継続し、トレーサビリティも可能な限り行なっています。


乳製品開発・製造のモットーは、「放牧乳の表現」と「可能な限りの衛生・品質管理」です。放牧乳は、雑味が少なく後味がさわやかで、ほのかに牧草の香りが感じられるのが魅力の一つ。季節ごとに風味が変化するのも特徴です。研究段階ではありますが、抗酸化力をはじめとする様々な機能性の効果も期待されています。

そして、私たちの牧場では第三者機関による「放牧認証」「アニマルウェルフェア(動物福祉)認証」「有機飼料認証」をそれぞれ取得しています。放牧の基準を満たしているか。空腹・乾き・不快を取り除き、牛にとっての快適性を担保できているか。有機肥料を活用し、牧場内の有機物の循環が実現しているか…。これらを外部機関に精査していただき、牧場としての立ち位置や課題を明確にしています。

食品衛生・品質の担保と向上はお客様との最低限の約束事であり、最も重要なポイントでもあります。製造施設や設備をしっかりと把握した上で衛生管理を実施するのはもちろんのこと、放牧乳の風味を損ね過ぎない殺菌温度と加熱時間(主に低温殺菌法を採用)にこだわり、機器・器具の殺菌を徹底。製造記録の管理や衛生検査を行い、基準を満たした製品をお客様へお届けしています。

こうした一連の取り組みに手を抜かず「安全・安心な食」をお届けし、皆さまの幸福な時間をお手伝いしていきたいと考えています。